ISO9001:2026運用のスリム化とは?7.5「文書化した情報」の要求事項を歴史から読み解く

ISO9001を運用している組織の中には、「文書管理規程が複雑になりすぎている」「記録の保管ルールが増えすぎて管理しきれない」と感じている担当者も少なくありません。

そのような状況をスリム化するためには、ISO9001:2026の7.5「文書化した情報」の要求事項を正しく理解することが重要です。

特に、現在のISO9001では当たり前に使われている「文書化した情報」という言葉が、なぜ使われるようになったのかを知ることで、要求事項の本質が見えてきます。

実は、2008年版以前のISO9001では、「文書」と「記録」は別々の概念として扱われていました。この歴史を振り返ることで、現在の7.5項が求めている管理の目的や意図をより深く理解できるようになります。

目次

かつてISO9001には「文書」と「記録」が存在した

現在のISO9001では、「文書化した情報(Documented Information)」という用語が採用されています。

しかしISO9001:2008以前では、

  • 文書(Document)
  • 記録(Record)

という二つの概念が明確に区別されていました。さらに、それぞれに対して異なる管理方法が要求されていました。

現在の7.5項は、この二つの概念を統合した要求事項ですが、その背景には業務環境の大きな変化があります。

なぜ「文書」と「記録」が統合されたのか

現代の業務では、従来のように紙の手順書と紙の記録を別々に管理するケースは少なくなっています。例えば、

  • クラウドシステム
  • ワークフローシステム
  • タスク管理ツール
  • 電子記録システム

などが普及しています。

こうした仕組みの中では、一つの情報が「ルール」と「記録」の両方の性質を持つことがあります。

例えばリスク評価表を考えてみましょう。リスク評価表には、

  • リスク評価基準
  • 評価方法

といったルールが記載されています。その一方で、

  • 実際の評価結果
  • 判定内容

といった記録も保存されます。

つまり、一つの帳票が「文書」と「記録」の両方の役割を果たしているのです。

また、クラウドシステムでは自動的にルールが適用され、同時に記録が蓄積されることも珍しくありません。

このような環境では、「文書」と「記録」を完全に分けて考える必要性が低くなりました。ある意味で、規格要求事項そのものを「スリム化」した、と言えるかもしれません。

その結果、ISO9001では「文書化した情報」という統一概念が採用されるようになったのです。

かつての「文書」とは何だったのか

過去のISO9001における「文書」とは、

ルールが記載されたもの

を意味していました。例えば、

  • 品質マニュアル
  • 規程類
  • 手順書
  • 作業標準書

などが該当します。

文書は業務を正しく進めるためのルールであるため、状況に応じて変更される可能性があります。

そのため過去の規格では、

  • 版管理
  • 発行管理
  • 承認管理
  • 配布管理

などが重視されていました。目的はシンプルです。

「常に正しいルールを使って業務を行うこと」

にあります。

改訂された手順書があるにもかかわらず、古い手順書を参照して業務を行えば、業務品質に問題が発生する可能性があります。

そのため文書には、最新版管理が求められていたのです。

かつての「記録」とは何だったのか

一方で、「記録」は活動の証拠です。例えば、

  • 内部監査報告書
  • 教育訓練記録
  • 点検記録
  • 検査記録
  • マネジメントレビュー記録

などが該当します。これらはルールではなく、

「実際に何が行われたか」

を示す証拠です。

ここで重要なのは、記録は原則として変更されるべきものではないということです。

もちろん誤記修正はありますが、後から都合よく内容を書き換えることは記録の改ざんになってしまいます。

そのため過去の規格では「記録の管理」として、

  • 保管責任者
  • 保管場所
  • 保管期間
  • 廃棄方法

などを定めることが求められていました。目的は、

「正しい証拠を維持すること」

にあります。

ISO9001:2026の7.5が求めていること

現在のISO9001における7.5.2「作成及び更新」、7.5.3「文書化した情報の管理」では、これら二つの考え方が統合されています。

つまり、ルールとしての性質を持つ情報には、

  • 承認
  • 改訂
  • 版管理

が必要になります。一方で、証拠としての性質を持つ情報には、

  • 保管
  • 保護
  • 保存期間管理

が必要になります。

ISO9001は実態におうじて、文書化した情報がどちらの性質を持つのかを考えながら管理することを求めているのです。

運用スリム化のヒントは「文書か記録か」を考えること

実務上は、

「この帳票は何のために存在しているのか」

を考えることがスリム化につながります。例えば、

手順書の場合

ルールを示すものなので、

  • 改訂番号管理
  • 承認管理
  • 最新版管理

を重視します。

内部監査記録の場合

証拠を示すものなので、

  • 保存期間
  • 保管場所
  • 閲覧権限

を重視します。

リスク評価表の場合

ルールと記録の双方の性質があります。そのため、

  • 評価基準部分は文書管理
  • 評価結果部分は記録管理

という考え方が有効です。

このように考えることで、不必要に複雑な管理を避けることができます。

ISO9001運用スリム化の本質は「管理目的」を理解すること

ISO運用が複雑になる原因の一つは、

「規格が求めているから管理する」

という発想です。しかし本来重要なのは、

なぜその管理が必要なのか

を理解することです。例えば、

  • 版管理の目的は正しいルールを使うため
  • 記録保存の目的は証拠を残すため

です。

その目的が達成できるのであれば、過剰な運用や重複管理は不要になる場合があります。

まとめ

ISO9001:2026の7.5「文書化した情報」を理解するためには、過去のISO9001における「文書」と「記録」の考え方を知ることが有効です。

かつての文書はルールであり、最新版管理が重要でした。一方で記録は証拠であり、適切な保管管理が求められていました。

現在の7.5項は、それらを「文書化した情報」として統合していますが、求められる管理の本質は変わっていません。

ISO9001:2026の運用をスリム化するためには、単に規則を増やすのではなく、その情報が「ルール」なのか「証拠」なのかを意識しながら管理方法を設計することが重要です。そうすることで、規格要求を満たしながらも、実務に適したシンプルで効率的な文書管理を実現できるでしょう。

ISO9001認証取得支援については、ISO9001認証取得支援をご覧ください。

マネジメントシステムのスリム化・再構築支援については、スリム化・再構築支援をご覧ください。

マネジメントシステム文書の統合・スリム化に関しては、こちらのコラムをご覧ください。

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この記事の著者/責任者

株式会社アールアンドイー 代表取締役 平間 亮 (Hirama Ryo)

私はこれまで20年以上にわたり、組織のISO等の認証取得支援に関わる中で、「認証取得そのもの」が目的化し、本来の改善活動や企業価値向上につながっていないケースを数多く見てきました。そのような課題を解決したいという思いから、組織の実態に合った仕組みづくりを支援する株式会社アールアンドイーを設立いたしました。現在はISO9001、ISO14001、ISO27001、プライバシーマークをはじめとする各種認証取得支援に加え、CSR調達対応やマネジメントシステムの統合・スリム化支援などを行っています。私たちは「認証を取得すること」ではなく、「組織に根づき成果につながる仕組みをつくること」を大切にし、これからもお客様それぞれの課題に寄り添いながら、実践的な支援を続けてまいります。

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