ISO9001:2026の力量とは?力量評価を人事考課で管理してもよいのか?

ISO9001を導入・運用している企業では、7.2「力量」への対応として、

  • スキルマップ
  • 力量評価表
  • 技能一覧表
  • 教育訓練記録

などを独自に作成しているケースが少なくありません。しかしその一方で、

「この評価は本当に現場の実態を表しているのだろうか」

「審査のためだけに作られているのではないか」

と感じることもあります。

実際、ISO9001の認証取得をきっかけとして新たな力量評価表を作成したものの、評価基準が曖昧であったり、現場で活用されていなかったりするケースは珍しくありません。そこで考えたいのが、

「人事考課資料を力量管理の証拠として活用できないか」

という視点です。

結論から言えば、ISO9001:2026の7.2「力量」の要求事項を満たしているのであれば、人事考課資料を力量評価のエビデンスとして活用することは十分に合理的な方法と言えます。

目次

ISO9001の7.2「力量」が求めているもの

ISO9001の7.2では、

組織が品質マネジメントシステムの有効性に影響を与える業務について、必要な力量を明確にし、その力量を持つ人員を確保すること

を求めています。また、

  • 教育
  • 訓練
  • 経験
  • 資格

などを通じて力量を確保し、その有効性を評価することも要求されています。重要なのは、

「力量があることを確認する」

ことであり、

「力量評価表という名前の帳票を持つこと」

ではありません。ここを誤解すると、ISO対応のためだけの資料が増え続けることになります。

なぜ力量評価表が形骸化するのか

ISO導入時に新たな力量評価表を作成したものの、有効活用されていない例は少なくありません。

その理由としては、

  • 評価基準が曖昧
  • 評価者ごとのばらつきが大きい
  • 他の評価制度と連動していない
  • 昇給や賞与に反映されない
  • 年に一度記入するだけ

といった問題があります。例えば、

「作業手順を理解している」

という評価項目があったとしても、3点と評価された従業員と5点と評価された従業員の差が客観的に説明できないことがあります。結果として、審査で提示するためだけの資料になってしまい、現場ではほとんど参照されない状況が生まれます。

人事考課資料には「本当の評価」が現れやすい

一方で、多くの企業ではISOとは関係なく人事考課制度を運用しています。

大企業だけでなく、小規模企業でも、

  • 昇給
  • ベースアップ
  • 人事評価
  • 賞与査定

などを目的とした評価制度を持っていることがあります。そして人事考課では、組織がその従業員に期待している行動や能力が評価の対象になります。つまり、

  • 品質意識
  • 作業能力
  • 業務知識
  • 改善提案能力
  • コミュニケーション能力

など、業務遂行に必要な力量が実質的に評価されている場合が多いのです。

「会社が期待すること」は力量そのもの

ISO9001の7.2が求めている力量とは、業務を適切に遂行する能力です。

そして人事考課制度が評価しているものも、多くの場合は企業が求める能力や成果です。つまり、

会社が従業員に期待している能力=力量

と考えることもできます。その意味では、

人事考課資料は力量評価のために最も真剣に作成されている記録とも言えるでしょう。なぜなら、

昇給や賞与に直結するため、評価者も評価対象者も真剣に取り組むからです。

ISOのために新しい帳票を作る必要はあるのか

ここで改めて考えたいのが、

「ISO9001のためだけの力量評価表は本当に必要なのか」

という点です。既に人事考課制度が存在し、

  • 必要な能力要件が定義されている
  • 評価が実施されている
  • 改善や教育計画につながっている

のであれば、それは力量管理の重要なエビデンスになり得ます。

もちろん、ISO9001で求める力量要件が人事考課制度で完全にカバーされていないケースもあります。その場合でも、新しい仕組みを一から作るのではなく、不足する部分だけを補強するという発想の方が合理的です。

「人事考課は見せられない」という懸念について

人事考課資料の活用を提案すると、

「機密情報だから内部監査で見せられない」

「審査で見せられないのではないか」

という声が出ることがあります。確かに人事考課には、

  • 給与情報
  • 評価点数
  • 人事上のコメント

など機微な情報が含まれる場合があります。

しかしこれは管理方法の問題であって、利用できない理由にはなりません。

内部監査でも対応は可能

例えば内部監査であれば、

  • 人事部門の監査員
  • 管理職監査員
  • 守秘義務を負う外部監査員

などを選任することで確認できます。また、評価結果そのものではなく、

力量評価が行われている事実だけを確認する方法も考えられます。

認証審査でも大きな問題にはなりにくい

認証機関の審査員にも守秘義務があります。そのため、

  • 必要部分のみ開示する
  • 個人名を伏せる
  • サンプル確認に限定する

などの対応によって、審査証拠として利用することは十分可能です。

実際、経営情報や人事情報を含む文書が審査対象になることは珍しくありません。

ISO9001運用のスリム化という発想

ISO9001の導入・運用において重要なのは、

「ISOのための活動」

を増やすことではありません。むしろ、

すでに会社で行っている有効な管理を活かすこと

です。力量管理についても、

  • 人事考課
  • 資格管理
  • 育成面談
  • 昇格判定

といった既存の仕組みを活用できるのであれば、それを利用した方が自然です。その結果、

  • 記録の重複作成防止
  • 管理工数削減
  • 現場負担軽減
  • 実効性向上

につながります。

まとめ

ISO9001:2026の7.2「力量」は、スキルマップや力量評価表の作成そのものを求めているわけではありません。

大切なのは、

  • 必要な力量を定めること
  • 力量を評価すること
  • 不足があれば教育や訓練を行うこと
  • その有効性を確認すること

です。

すでに人事考課制度を運用している組織であれば、その評価資料には会社が本当に求めている力量が反映されていることが多くあります。

そのため、ISO9001のためだけに新たな力量評価表を作る前に、

「今ある人事考課資料を力量管理の証拠として活用できないか」

を検討してみる価値は十分にあるでしょう。ISO9001運用のスリム化とは、新しい帳票を増やすことではなく、既存の仕組みを最大限活用することから始まるのです。

ISO9001認証取得支援については、ISO9001認証取得支援をご覧ください。

マネジメントシステム文書の統合・スリム化に関しては、こちらのコラムをご覧ください。

マネジメントシステム統合のメリット・デメリットは、こちらのページで詳しくご紹介しています。

複数マネジメントシステムの統合支援は、こちらのページをご覧ください。

この記事の著者/責任者

株式会社アールアンドイー 代表取締役 平間 亮 (Hirama Ryo)

私はこれまで20年以上にわたり、組織のISO等の認証取得支援に関わる中で、「認証取得そのもの」が目的化し、本来の改善活動や企業価値向上につながっていないケースを数多く見てきました。そのような課題を解決したいという思いから、組織の実態に合った仕組みづくりを支援する株式会社アールアンドイーを設立いたしました。現在はISO9001、ISO14001、ISO27001、プライバシーマークをはじめとする各種認証取得支援に加え、CSR調達対応やマネジメントシステムの統合・スリム化支援などを行っています。私たちは「認証を取得すること」ではなく、「組織に根づき成果につながる仕組みをつくること」を大切にし、これからもお客様それぞれの課題に寄り添いながら、実践的な支援を続けてまいります。

目次